ふたりの距離の概算

米澤穂信古典部」シリーズ最新作は、春のマラソン大会から始まりを告げた。しかし浮かない顔の奉太郎の頭を占めるのは、古典部に入部した新入生・大日向友子のこと。彼女はなぜ突然、入部を取り辞めたのか?

その謎をマラソン大会の最中に解くことを命題に繰り広げられる人間模様。失踪中にすれ違う里志や摩耶花、千反田の証言や知り合ってからの回想を交え、少々のセンチメンタリズムをスパイスに淡々と語られていく。

奉太郎の起伏に乏しい感情と冷静な視点で語られるからこそ物語の流れ、謎解きを作中の感情に揺さぶられることなく穏やかに楽しめました。


≪何を正しいと考え、何を間違っていると考えるかは、教育や経験によって後天的に憶えていくことだ。善行を褒められ悪行を叱られて善悪の区別をつけていく。それに反して何を好きになり、嫌いになるかは、誰かに就いて学ぶものではない。それを先天的に言ってしまえば赤ん坊の頃から将来チーズ嫌いになるよう定められていたというようで、少々運命論めいてくる。好き嫌いはむしろ、長じてのちに己の内側から湧きあがる衝動だと言えるだろう。それは詰まるところ、自分はなにを最も大切にしているのかという問題にも絡んでくるに違いない。≫


少々長いですが、今回の話の根幹に繋がり又、人が成長していくうえで学ぶべきことがここに凝縮されているのを強く感じます。


誰かがこの作品を読み、己の今いる場所を確認した時、その人が何を一番大切にしているのかが見えたら、それはとても幸せなことでしょう。

ふたりの距離の概算

ふたりの距離の概算