ベン・トー3

一、二巻のときと少し違って、佐藤というよりは沢桔姉妹の話になっている。

ただ、だからといってギャグパートが減っているわけじゃない。ポイントはしっかり押さえられていて、むしろしっかりと味付けされたものになっていた。特に、佐藤とあやめのラブシーンかと思いきや、死神が最後に美味しいところをかっさらっていく場面は、シャリの部分が全てワサビになった寿司を誤って食べてしまった位の衝撃がある。期待した分、驚きは相当なものだ。

80ページは要チェック!

さて本編は、幼い頃から弁当奪取の才能を開花させてしまったが故の沢桔姉妹の苦悩と疎外感を、半額弁当を通して表現するなんて誰が考えるだろうか。
闘うことでしかわかりあえないはずの狼達が闘うことを放棄した瞬間[ヘラクレス棍棒]達の背後に見え隠れした村意識に日本社会の根元を垣間見た気がして背筋に薄ら寒いモノを感じた。

いつの時代にも現状を望む者と変革を求める者がぶつかり合い、削り合い、傷つき合い、そしてどちらかが今を動かしてきた。

それは歴史を紐解けば明らかなこと。狼が狼である為に動いた佐藤達と動かなかった[ヘラクレス棍棒]達。どちらが善いか悪いかではなく、どちらを時代が求めたか。
それが、現代社会に求められているものと繋がっていることは読者は意識せずとも感じているはずだ。
お互いのコミュニティに居るだけで暮らしていける生活は終焉を迎えつつある。いや、既に終焉の時を迎えているといっても決して言い過ぎではない。
一巻では師との出会いと狼としての自覚を、二巻では己と友の成長を、三巻では周りに囚われることなく、自らの信念を信じることを。
これらを無自覚に体現してきた佐藤を通して、この時代の変わり目を生き抜く為に必要なものがおぼろ気ながら見えてくる。

本文内にこんな一節がある。
「かつて拳を交えた時に自分はこいつはバカだと確信したじゃないか。愚直、まさにそんな男だ。」
ここに佐藤の人間としての魅力が象徴されている。
勉強は出来るが世渡りは上手くない。そんな彼の不器用さが「こんな奴いねぇよ…でもいたらなぁ」と読者の反感をさそいつつも、共感を得ているのだ、と。
理想と現実、その二律背反に縛られて現代を生きている私達は、リスクを犯して進むことがなかなか難しい。就職にしろ、勉強にしろ、とにかく安全第一。それがあるに越したことはないのだが、余りにもセーフティ優先になりすぎだと感じてしまう。
サッカーの代表戦でも、よく「リスクを犯せ」と解説やサポーターは声高に叫ぶが、「リスクを犯してはいけない」ように教育された国民性はそうそう治るものではない。

だからこそ佐藤のような真っ直ぐなバカが必要なのだ。とにかく進む。その事を日本の教育は教えて然るべきだと。ただ、失敗した者に優しくないこの国の制度では、小賢しいバカばっかり増やしてしまうのだろうが。

失敗は成功の素。
[諦めなければ夢は必ず叶う]なんて理想を振りかざすつもりは毛頭ないが、諦めずに進みつづければ、第一希望じゃなくても必ず何かしら道は開けることを、これを読んだ方々、そして日本という国に信じてもらいたい。

希望は自ら動くことで掴み取れるものだと。

ちょっと格好つけすぎかもしれないが、時々は色々と思うことがあふれ出てくるときがあるもので、ご了承ください。

ベン・トー 3 国産うなぎ弁当300円 (スーパーダッシュ文庫)

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