恋文の技術

はてブ読者の皆様ならご存知の森見登美彦御大の最新作である。

タイトルと冒頭の数ページを読んだ印象では、「今回はちょっと物足りないかも」と
思ってしまった。なにしろ「文通」である。

自分も何度か経験はあるが、これをどのように料理するのか、皆目見当がつかなかった。

だがしかし、である。

読み進めていくと、作者お得意の持って回った言い回しと妄想一杯の虚言がそこかしこに一目でそうと分からない毒のある文章で笑いを誘う。

何人もの人間と同時進行で文通をする守田一郎を通して、我々は多角方向から、立体的に物語の経緯を間接的に想像し楽しむことができる。

11話の「大文字山への招待状」では、読んでいくうちに「あれ?」と不自然な部分があるのに気づき、それが伏線として最後に物語が回収されていく気持ちよさは、梅雨入りした今日の重苦しい天気に射した、一筋の太陽の光だ。

やはり、御大の作品はいつ読んでも楽しい。意味のないことを真面目に取り組む登場人物に懐かしさと憧れをいつも覚えてしまう。

じめじめとしてくるこの時期、ひとつ遠方の友人に手紙の一つもしたためてみるのもいいかもしれない。

恋文の技術

恋文の技術