遠まわりする雛

古典部」シリーズ第4弾。今回は、これまでに起こった事件の間に起きたちょっとした不思議が少しずつ重なり合うようにリンクし、入学からの一年間が描かれている。

どれも秀作揃いで面白いのだが、あえて一つを、と問われれば表題作の「遠まわりする雛」ではないだろうか。
「やるべきことなら手短に」、「あきましておめでとう」、「手作りチョコレート事件」と少しづつ近づいていく千反田と奉太郎の距離が面白くもありもどかしくもあり……。その集大成が「遠まわりする雛」に表れているといっても過言ではない。

舞台はいつものように学校ではなく、千反田の実家のお祭りで起こった些細な手違い。だが、その手違いがこの「古典部」シリーズにこれまでになかった彩りを添えており、新鮮な驚きを味わった。「まさかあの省エネ主義の奉太郎が……」と読んだ方なら誰でもびっくりするだろう。その布石ともなっていた前述の三作品を改めて読み直すとより深く楽しめた。

「手作り……」では行方不明になったチョコを見つける為に手伝うことになった奉太郎はこう考える。「しかしこれも渡世の義理か。なにしろ俺と伊原は縁は薄いが長いのだ。折角のチョコレートが盗まれたと知ったら、やつはどんな顔をするだろうか。俺はそんな顔は見たくない!」と。

これは一体どういう心境の変化か。やはり千反田との関わりが奉太郎に変化を与えたのだろうか。と思っていたら、続くのは

「なにしろ俺は、ホラーは苦手なのだ」

ヤラれた。これはすごい。この独白はなんてことないように思えるかもしれないが、これは、奉太郎の女性に対する恋愛観を表しているのではないか。

これまで恋というものに無縁だった彼にとって恋愛というものは悟志と伊原のごたごたでしかなく、伊原の執念深さというか、情念というものが恋愛だと刷り込まれてしまっているのだろう。その背景を知った上で上記に笑いを覚え、それとともに、男女の恋愛をホラーと表現できる奉太郎(作者)の表現力の凄さにうすら寒さも感じた。

だが、それがあったからこそ「手作り……」のラストから「遠回りする雛」で「一本だけ狂い咲く桜」の下を千反田が通る時を経て、千反田との再会までの奉太郎の心情の揺れ動きが素晴らしいものに思えてくる。

全ては姉の見えない手引きがあったからこそ、と想うのは自分だけだろうか。このシリーズ全体を通しての影の進行役ともいえよう。


正直、今回で終わりかな?と思っていたら、秋頃には出る模様。それを知ってひと安心。


今後も継続して米澤さんを追っかけて行きたいです。

とらドラ」読むからしばらく読まないと思ってたが、あっさり前言撤回。こだわりのない自分に「こだわらないことこそがこだわり」だとエールを送りたい。

遠まわりする雛

遠まわりする雛