ささみさん@がんばらない

久々の日日日作品。
イラストが「嘘つきみーくん壊れたまーちゃん」の左だったので、思わず手に取ってしまった。

最初は、引きこもりの妹が教師の兄に片思いしているけど、兄妹だからくっつくことはなくて、ご近所の3姉妹と兄がキャッキャしているのをやきもきしてるのを見てて、我慢できずに外界へと出るような話(ギャルげーにちょっとありそうな話)かと思ったら、日本書紀古事記の神話をベースにラストまで楽しく読めた。

出てくる固有名詞がそれぞれの役割を象徴しているのも判り易く、キャラを想像しやすいし、ちょっと懐かしいテイストで個人的にこういうネーミングセンスは大好きです。

なにしろ三姉妹は上から「つるぎ」「かがみ」「たま」に、お兄ちゃんは「神臣(かみおみ)」で、の妹は「鎖々美(ささみ)」と、まぁ分かりやすい!ていうか、まんま。

本編の割合は、こみかる6割、シリアス2割、ラブ1割、残り1割は読者のそれぞれが感じる萌え、でしょうか。

軽快な語り口に序盤からスッと引き込まれ、「あれ?」と謎や伏線が置いとかれたまま進んでいくと、ラストでいつの間にやらきれいに収束していくのはお見事としか言えない。読んでて、全然ストレス感じることなかったし。

やっぱり面白い。感性が若いな、と読んでて思う。そりゃそうだ、まだ22,3歳だものね。それで、この感性と筆力は反則だ。

≪「ふうむ……」
 お兄ちゃんは真面目な仕草で近づいてくると。
 「これは確かに不思議ですね」
 おもむろに私の乳を揉んだのだった。
 もむもむもむ。≫
ラスト手前のシリアスな場面のはずなのに、ここでこうくるか?
引きこもりの鎖々美が部屋から出て、お兄ちゃんに相談をした途端にこの返し。
これは凄い。

これだけでもセンスの高さが分かるのに、
読者全体に問いかけるような、ハッとさせられる場面もあったり、
いい意味で期待を裏切ってくれました。

≪「『誰でも一冊は本を書ける』―自分の人生っていう物語を、誰かに見てもらいたい。かたちとして残したい。あぶくみたいに消えたくない。その気持ちはわかるよ。神様も自分たちの物語を神話として残した。偉人たちも歴史書のなかに書き記した。だけど、一般人だって物語のなかに生きている」
 インターネットの世界には、無数のホームページやブログが、それ以外の何かが、小世界として散在し―箱庭をつくっている。
 誰に求められなくても、お金を得られるわけじゃなくても。
 人間は物語をかたちにして、残したがる生き物なのだ。≫

これには驚きを通り越して、背筋がゾクッとした。
正にその通り。この一文が今もこうして書いている自分も含めたブロガーの本音なのだと思う。

誰に読まれるわけでもなく、日々の移ろいをネットに書き込む。小さなコミュニティのなかで知られようが知られまいがお構いなく、書き込んでいく。

その痕跡がいつ消えるかも分からず、いつまでもネットの世界を浮遊し続ける。
本人が死んでも、サーバーが無くならない限り、残り続ける。

これを書いている自分にも言えるのだが、一体誰に読んでもらいたいんだろうかね?
確実なのはこれだけ。
ただ書き残したい。
それだけなんだよね。
多分。


ささみさん@がんばらない (ガガガ文庫)

ささみさん@がんばらない (ガガガ文庫)