月光

≪「野々宮君が私の知る誰よりも“つまらなそう”に生きているよう に見えたからよ」≫

人生を退屈そうに生きる少年、野々宮。彼が“偶然”、クラスのマドンナ・月森葉子の落とした『殺しのレシピ』を拾ったことから物語「月光」は動き始める。

電撃文庫最終選考作品「月光」は、特殊能力を持った少女が暴れ回ることも無ければ、全ての異能を打ち消す力を持った少年が世界を駆け回ることもない、いわゆる『普通』の人達が登場するお話です。

激しいアクションをお好みの方には少々物足りないかもしれません。自分が読んだ第一印象としては「うん、これは『講談社BOX風推理ラブコメ』だな」と感じました。有り体に言ってしまえば、主人公、野々宮少年の一人称形式が鎌池和馬というよりも、乙一なのである。(だったら集英社じゃねぇか!というツッコミはさておいて)

多分、編集室ではこんな会話が交わされているはずだ「他とは一線を画した多少風変わりな作風がレーベルのイメージと違う」「かといってこのまま他社でデビューされたりするのは勿体ない」「なら、うちで出そう」決定。
※完全に想像です。どうぞ誤解なさらぬよう。

知名度で多少劣る分、売り上げは伸びないかもしれないが、ファンはつく作品だと思う。自分は好きです。ちなみに今月号の「ダ・ヴィンチ」でちょこっと紹介されてた。うん、見てるひとは見てるんだな、とちょっと嬉しくなっちゃいました。

キャラに触れると、葉子さんのおとぼけっぷりが素敵。全てを知ってる張本人なはずなのに、どこまで行っても他人事のように全てをスル―。いつでもネタを小出しにしては、野々宮をおもちゃに楽しんでいる様子。そんな小悪魔っぷりを如何無く発揮する彼女に振り回されたい!と、ちょっと思っちゃいました。そんな彼女の一言。

≪「相手の考えていることを知りたかったら、自分ならどうするかって考えればいいのよ」≫

シンプルだけど、奥が深い。一言一言に妙な説得力を感じさせる鋭さがあって、読むたびにハッとさせられる。

推理要素が多分に含まれているので、あまり内容は追及しませんが、是非とも月の綺麗な夜にでも読んで、その世界に浸って頂きたいものです。

月光 (電撃文庫)

月光 (電撃文庫)